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2005.08.21

サプライズプレゼント

理沙は怒っていた。

数日前、恋人の英明に聞かれた。
「理沙、もうすぐ誕生日だね。プレゼント何が欲しいい?」
「え?そーだなぁ、なんでもいいけど、びっくりするようなものが欲しいなぁ」
「う~ん、むずかしいなぁ。でも、期待に応えるようにアッと驚くようなプレゼントを用意しておくよ」
「本当っ?うわー、楽しみだなー」

そして今日、肝心の誕生日だというのに英明は仕事だ。
「ごめん、どうしても今日見積り出さなきゃいけないんだ」
男はいつもそうだ。遅刻の言い訳は見積りか資料作成。
見積りなんて下限割れしない程度に適当に書いてちゃちゃっと出しゃいいのに。
そんなに見積りが大切ならエクセルファイルの「見積原本.xls」と結婚すればいいんだ。

デートをすっぽかされ、日も暮れた街をイライラしながら家へ急ぐOL。
安いドラマだなぁと思いつつコンビニに入る。
デザートコーナーでヤマザキのシューロールケーキを発見。
「なかなか売ってないんだよなぁ。バースデーケーキはこれでいいや」
理沙は投げやりにつぶやき、これとセットでお気に入りのリプトンのミルクティーを買って店を出た。

大通りから路地に入りすぐ先の自宅アパートに向かう理沙の後ろから車の激しいスキール音と激しいエンジンノイズが轟いた。
驚いて後ろを振り返ると、ヘッドライトを上向きにした黒塗りのダッジバンがものすごい勢いで向かってきた。
「危ない!」
とっさに避けたが、バンは激しいブレーキとともに理沙に覆い被さるように停まった。
と、サイドの観音扉が開き、中からドルフ・ラングレンのようないかつい白人が3人降りてきた。
「リサ、ダナ?」
いきなり名前を聞かれたが、あまりの驚きに言葉が出ない理沙にお構い無しに黒い布袋を頭からかぶせようとするドルフ・ラングレン似。
「拉致られるっ!」
とっさに思った理沙は激しく抵抗した。
するとラングレン似のひとりが堅いゴムの棒を振りかざした。
「CNNで見た!警官が犯人を虐待するときに使うヤツだ!」
理沙がそう思うや否や「ゴスッ!」という音とともに後頭部に鈍痛がはしる。
「ダワイ!ダワイ!」「ヤポ…ンスキ…」
理沙は遠のく意識のなかでかすかに聞こえた男達の会話に驚いた。
「な、なぜロシ・・ア人が…?」

どれだけ時間がたったのだろうか。
バババババ、という音で意識が戻りかけた理沙は思った。
いったいここはどこだ?
と、車のドアが開き外に連れ出された。
強烈なエンジン音とともに体全体に激しい風圧を感じる。
頭にかぶっていた布袋を外され、やっと視界が開ける。
目の前にはMH2000がエンジン全開、スタンバイOKの状態で爆音を響かせていた。
「これって、2000年11月の試験飛行で墜落したやつじゃない。こんなのに乗れって言うの?」
そんな理沙の思いを無視するようにラングレン似は背中をぐいぐいと押し、開いている後部ドアに近づける。
そこに信じられないものを見た理沙は体が硬直した。

「よぉ、待ってたよ」
にこやかな笑顔で英明が手を挙げていた。
「な、何、やって…るの?」
言葉が出ない理沙にはお構い無しに英明は続けた。
「つれてくる時に抵抗するもんだから…痛かった?」
「い、痛いも何も気絶するほど痛かったわよ!ていうかいったい何なの?!何のつもりなの?!」
「驚いた?お誕生日おめでとう!」
「???」
「びっくりするようなプレゼントが欲しいって言ってたじゃないか。だからヘリの夜景遊覧飛行をプレゼントしようと思ってさ」
「だ、だからって拉致まがいのことをしたの?」
「だって普通につれて来たらヘリポートに近づいた時点で遊覧飛行ってバレちゃうじゃん」
「??!!」
「まーいいから乗って乗って!」

半分押し込まれるように理沙をヘリに乗せ、ラングレン似はスライドドアを思いっきり締め、パイロットの座る前席のドアをバンッと叩くとぐっと親指を突き立てた。
それを合図にエンジン音はひときわ高くなり、機体はぐっと前のめりになりながら地表を離れた。

「ほら、みてごらん。あそこに見えるのは両国国技館だよ」
無邪気に話す英明を、呆然と見つめる理沙。
驚いた。心底驚いた。
普通に連れて来られればこんなに素敵なプレゼントは無い。
眼下には1200万都市東京の極上な夜景。
今は秋葉原上空だ。
だが待て。何かおかしい。
そんな思いを無視するかのように英明は続ける。
「うわー、綺麗だなー。もうすぐ都庁だよ。秋葉原からあっという間だね」
なんか凄く楽しそうだ。もう訳がわからない。

ヘリは新宿上空で反転し、六本木、新橋を通って出発地のヘリポートに戻ってきた。
「ねえ英明、ちょっと聞いて」
「ん?どうしたの?」
「私の言ったびっくりするようなプレゼントって、こういうことじゃないの。それだけは判って」
「そっかー、あんまりびっくりしなかったのか。ちょっと残念だな」
「いや、そういうことじゃなくて…」

地上で両手を上下させている人に従ってヘリは徐々に高度を下げ、軽い衝撃とともに着地した。
ラングレン似がスライドドアを開け、今度はエスコートするかのように理沙に手を差し伸べ降りるのを手伝った。
そこに停まっているグレーのADバンが目に入った。
ハッと英明を振り返るとにこやかに手を「バイバイ」と振っている。
ADバンのナンバーは封印カバーが破られている。
「盗難車…?!」
逃げようとしたその瞬間、半透明なシャチハタのような筒を持ってラングレン似が近寄ってきた。
「CNNで見たことがある!チェチェンゲリラに子どもを殺されて半狂乱になった母親を静めるためにロシア連邦保安庁職員が鎮静剤を打ち込むのに使った機械だ!」と思う間もなく、その機械が首筋に「パスッ」と圧縮空気で鎮静剤を打ち込むのとADバンのリアゲートが開かれたのはほぼ同時だった。

ぼんやりと意識が戻ったが視界は真っ暗だ。
やっぱり黒い布袋をかぶらされている。
しばらくするとADバンは緩やかに緩やかにスピードを落とし路地を曲がったところで停まった。
リアゲートが開き、乱暴に降ろされた。
理沙は心底思った。
出発はまだいい。本当に驚かせるのなら仕方のないことかもしれない。
でも、帰りのこれは絶対に必要の無い演出ではなかったのか、と。

誕生日とか結婚式で、サプライズプレゼントの話を見聞きするたびにこんなストーリーが本当のサプライズだよなーと想像してしまう私はやっぱり映画の見過ぎですか。そうですか。やっぱり…

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